犬の臼歯破折
久々の症例紹介です。今回は写真たっぷりです。
ある日、目の下がぷくっと腫れてきたと来院したワンコ。
こういう所が腫れてしまう代表的なものは歯が原因によるものです。
口の中を検査するとやはり、疑わしいところが見つかりました。
後日、麻酔をかけての処置となりました。
他の歯は綺麗なのに上顎第4前臼歯(裂肉歯(れつにくし)とも呼ばれます)にびっしりと歯石がつき、歯肉も真っ赤に炎症を起こしています。
歯石を除去すると・・・
器具で指しているところが、「露髄(ろずい)」した部分。
「露髄」とは、
歯の中にある「歯髄」と言われる神経・血管・リンパが通る部分で本来は露出してはいけないところが、歯が折れてしまったことで露出した状態。
露髄した歯は細菌感染を起こしやすくなり、歯の根元部分まで菌が侵入してしまうといわゆる「歯槽膿漏」と同じような状態になってしまいます。
この子は小さい時から硬いものをかじるのが好きで、ペットボトルの蓋などをかじっていたそうです。
上の写真で矢印で囲んでいるうっすらと線が入っているように見えているのが、歯が折れてしまった境目です。「平板破折(へいばんはせつ)」といって、歯が縦割れを起こした状態です。
反対側の正常な歯と比べるとよくわかります。
さて、この問題の歯、根っこが3本あるためそのままでは抜くことができません。根っこにあわせて歯を3分割して一つづつ抜きます。
抜き終わったのがこちら。
3つの穴がお分かりいただけると思います。
この後、穴の周りの骨(歯槽骨(しそうこつ):歯を支えている顎の骨)を尖った部分がないように削り、歯肉を少し剥がして穴をふさぐために縫い合わせます。
縫い終わったところ。
数日後の再診時、腫れもなく縫合した部分にも問題ありませんでした。
腫れた部分は切開したためすこし傷跡が残っています。
犬の歯はもともと、獲物を捕らえて皮や肉を切り裂くための歯しか持っていません。
人の臼歯のように硬いものを噛み砕くことは本来できない構造になっています。
そのような歯で硬いものをかじり続けると「刃こぼれ」を起こしてしまいます。
これが今回起きた、「平板破折」です。
ペットショップで売られているヒヅメや固いガム製品などは破折の危険性が高くおすすめできません。
また、ケージをかじるくせのある子や固いおもちゃなども危険性があります。
万一、歯が欠けているのを見つけたら、早めに診察を受けることをお勧めします。
治療には抜歯と、歯内療法とよばれる歯を温存する方法があります。
「抜歯」というとよく、
「歯を抜いても食事は食べられますか?」
と質問されますが、先程も書いたように犬は本来噛み砕いて食べるのではなく、飲み込んでしまいます。
ですので余程のことがない限り抜歯をしても食事には影響はありません。
歯内療法に関しては、当院では行えませんので専門医を受診していただく必要がありますが、犬の場合、人のように噛み砕くために臼歯を使うことがないため、そこまでして歯を残すことに現実的にはあまりメリットが有るとは思いません。
また歯内療法が可能なケースは、破折の発見が早く、破折部が歯冠に限局している場合で、さらに治療後も定期的な経過観察が必要になります。