犬の尿道結石
久々の症例紹介です。
15歳の雑種犬のおじいちゃんわんこ。
ある日、お腹が張っているということで夜間救急病院を受診したところ、おしっこが出なくなって膀胱がパンパンになっていたとのこと。
なんとか緊急の処置はしてもらい、朝になり当院へこられました。(このお宅の猫さんを診察したことがあったため)
来院してすぐのレントゲン写真がこれ。
赤い矢印で囲ったのがおしっこでパンパンになった膀胱。
水色は夜間病院でとても苦労してなんとか入れた細〜いカテーテル(管)。
黄色い矢印が尿道に詰まった結石。(矢印は2つですが結石はもっとたくさんあります)
グレーで指しているあたりにあるのが「陰茎骨」といわれる骨です。
オス犬の尿道は出口のところでこのように骨に囲まれています。そのため、膀胱結石ができて尿道に流れてくるとこの子のように詰まってしまうことがあります。
実はこの子、数年前から”膀胱結石”というところまでは診断され、処方食を食べていたそうです。
しかし、どんなタイプの結石かは調べられていなかったとのこと。
よく聞いてみるとその頃からいつもおしっこはポタポタとする感じで、勢い良く「ジャーッ」とすることはなかったそうです。
さて、このわんこ、緊急的に入れてもらたカテーテルはすぐに詰まってきていたので手術となりました。
とにかく詰まっている結石を取り除き、おしっこが出るようにしてあげる必要があります。
そこで「尿道造ろ」という術式を選択しました。
先ほど書いたように、オス犬のペニスには骨があるためここに物理的に石が詰まってしまいます。なのでその手前に”窓”を造ってあげるわけです。骨のない部分の尿道は筋肉の管なのでそれなりに伸展してくれますから、多少の結石は押し出されて排出してくれます。
手術自体もこれぐらいの体格の犬ならそれほど難易度は高くありません。
が、この子の場合はこれだけの石が長い間詰まっていたため非常に強い炎症を起こしていました。そのため切開した尿道からの出血に少し苦労しました。
術後も2日ほどは排尿時に結構な出血がありましたが、3日目には治まりました。
これが退院時の手術部分の写真です。
右側がお尻です。
赤く見えるのが尿道を開いて造った”窓”の部分です。ここからおしっこがでるようになりました。
数年ぶりに勢い良く排尿できるようになったせいか、15歳とは思えないぐらい元気に退院して行きました。
こちらが取り出した結石。
一番大きなものだと1cm近くあります。
分析の結果、「シュウ酸カルシウム」というタイプで、残念ながらこれまで食べていた処方食では予防できないものでした。
最近はインターネットで処方食でも安く気軽に購入できるようになりました。
同じものなら安く購入したいのは理解できます。ですので、当院ではネットでの購入に特に意見する気持ちはありません。ただし、万能な処方食は存在しません。
どのような食事を食べていて、状態がどうなのかを定期的に報告するために診察に連れてきていただければ良いと思っています。
ちなみに、このワンコの飼い主さんを私は叱りました。
数年前からチョロチョロとしか排尿していなかったことに気づいていながらそれを放置していたからです。
また、以前この子を診察していた獣医師にも怒りを覚えました。あまりにもいい加減な対応すぎるからです。
幸い、この子は重い腎不全を起こすこともなく手術によって助かりましたが、一歩間違えれば命を落としていた可能性があります。
動物を飼った以上、責任をもって健康管理をしてあげてください。ただ飼って、餌をあげるだけが飼い主ではありません。